座席を譲られた老人が握り締められた千円札
東京では連日の猛暑が続き、外気の方が体温より高いのではと感じた日、私は仕事で移動のため電車に乗りました。
運よく2人+3人+2人の手すりで仕切られた7人掛けのシートに座れ、上下の作業服(ユニホーム)を着た、きっと職業は設備関係の20代後半といった感じのスマホを触っていた青年が隣に座っていました。
次の駅を電車が出発した瞬間、突然この青年が立ち上がり、この駅から乗車した老人に声をかけて席を譲りました。
「ありがとう」 爽やかな歯切れの良い声で応えた老人は、譲られた席に座りました。
シルバーシートでない一般席で、躊躇することなく即座に席を譲るこの青年の人間性 に、横にいた私はある種の感激を覚えていました。
席を譲られた老人。 少し小さな声で 「ありがとう」と 言って、前にに立つ青年のズボンのポケットに何かを入れようとしました。
老人の手には、急いで小さく折り畳められた 千円札 が握り締められていました。
断る青年に 「早く、早く」 と受け取るよう勧める老人。
「そんなつもりではないですから」 と断る青年。
「俺に恥をかかせないでくれよ。遠慮せずに、いいから。早く。」 と言い張る老人。
「受け取ることは出来ません。本当に申し訳ありません。」 頑なに断る青年。
「何を言っているんだ。君は良いことをしているんだから。早く、早く。」 と食い下がる老人。
「本当にごめんなさい。どうか勘弁して下さい。」 必死になって断る青年。
電車が次の駅に着くために減速しはじめるまで、二人のこのような、やり取りが続いていました。
次の駅に停車して、この青年は電車を降りていきました。
もしかしたならば、降りて別の車両へ移動したのかもしれません。
折りたたまれた千円札を再び直して、財布に戻す時の老人の寂しいオーラが横にいる私にも、ふつふつと伝わってきました。
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